fetal cell microchimerism とは、胎盤関門を超えて母体に移行した胎児由来細胞が分娩後も母体の免疫学的排除を受けることなく長期にわたって母体内に生存し続ける現象を指します。
我々は、妊娠初期の時点では、母体へ移行した胎児細胞が母児界面に存在する胎児細胞と同様に、母体の免疫学的排除を受けないこと、ならびに母体に生着する多分化能を有する細胞群（pregnancy associated progenitor cells 以下 PAPCs）の多くが、妊娠初期に既に母体骨髄へと移行していることを報告しています。
母児界面を離れて母体の諸臓器へと分布した胎児細胞は、妊娠中期以降になると母体の免疫学的排除を受け、その多くは分娩後に速やかに消失します。この排除機構が存在しない先天性免疫不全マウスを母獣とした妊娠分娩モデルにおいては、分娩後に胎仔細胞が母獣内で著明に増加することから、多くの母獣が死に至ります。
PAPCsは多分化能を有すると同時に、母体の免疫学的排除を受けないという特殊な細胞集団でもあり、母体の傷害臓器の修復に関与していることが報告されています。
我々は、分娩後に母獣に虚血性臓器傷害や薬剤性臓器傷害を誘発することで、傷害臓器において臓器特異的な細胞形態を有する胎児細胞が検出されることを報告しています。
現在は、PAPCsが母体の免疫学的排除を受けないという特殊性を利用した再生医療への応用について研究を進めています 。
